2025年06月23日
ポルトガル手しごとの旅
ポルトガル南部、アレンテージョ地方。広々とした平原に風が渡り、オリーブの木々が低く影を落としていました。 その穏やかな土地へ向かったのは、100年以上続くポルトガルの伝統的手織物工房「Fábrica Alentejana de Laníficos(現・Fabricaal)」を訪ねてみたかったからです。
工房のあるレゲンゴシュ・デ・モンサラーシュ(Reguengos de Monsaraz)を含むアレンテージョ地方は、ポルトガル国内でも有数の羊の放牧が盛んな地域として知られていて、「Mantas Alentejanas(アレンテージョの毛布)」と呼ばれる羊飼いたちの防寒用マントを作っていました。
1977年オランダ出身のミゼット・ニールセン( Mizette Nielsen)が、モンサラーシュの村に「Mizette」という名の織物工場を創業(現在、村にはショップだけが残っている)。村の暮らしの中にあった伝統の織物を守りながら、色やデザインを新たなかたちで再生させました。
私が日本へ紹介しているポルトガル中部のミラ デ アイレで作られている毛布シ・コラサオン (Chicoração)とも繋がりのある、「アレンテージョの毛布」。その生い立ちをずっと見たいという思いでした。しかし、コロナという時代の波に巻き込まれていた間に、工房の運営も変化が起こります。
2020年以降は、彼女の想いを受け継いだ3人のポルトガル人が工房を運営していて、ブランド名を「Fábrica Alentejana de Fabricaal」に生まれ変わらせています。日本から連絡をすると、温かく迎えてくださいました。
熟練の手が描く、アレンテージョの模様
1980年代にオリーブオイル工場の跡地へ移転した工房は、ひんやりとした石造りの美しい空間でした。そこでは今も、11台の手動の織機が現役で動いています。100年の時を超えて、カタカタと鳴るその音。織っているのは、地元の熟練の女性たちです。糸を操る手がとても早く、テンポ良く緻密な模様を織りなしています。
大地の色をまとう、手織りのぬくもり
素材は地元産メリノ種の羊毛。植物由来の染料で染められた糸は、アレンテージョの風景そのものです。夕焼けを思わせるオレンジ、土のような茶、差し込む光の黄色、どれも自然からすくい取ったような鮮やかな色。手織りの生地は、防水性もあって、しっかりと丈夫。ずっしりとした重さに、時を重ねてきた歴史感じます。
織り柄には一つひとつに意味があって昔から伝えられてきたものばかり、ラグやブランケットとして暮らしの中で使われるだけでなく、その美しさからインテリアとしても高い評価を受けています。
帰り際に立ち寄ったスーパーマーケットには、たくさんのフレッシュチーズが並び、POPには「やわらかくてクリーミーなとろける羊乳のチーズ」と書かれていたので興奮しました。トマトと一緒にオリーブオイルと塩を振って、朝ごはんに。夜はサラダにして、アレンテージョのワインといっしょに楽しみました。
この土地の恵みを、そのまま味わう自然体の食卓。アレンテージョでは、羊は毛糸だけでなく、肉にも、チーズにも、カタチを変えて人の暮らしの中に生きている。伝統と自然とが、無理なく結びついている場所でした。
あの工房で見た、時を超えて大切に引き継いできた織り機や道具と目を見張る手の動き。きっと、これからも変わらずに、毛布を織り続けていくことでしょう。
店主がめぐる旅
2024.5.9 Reguengos de Monsaraz ,Alentejo
旅先で出会ったポルトガルの手しごとをお届けする小さなオンラインストア「&COMPLE(アンコンプレ)」店主・阪倉みち代
気の向く時に綴る旅のミニジャーナルです。
今回持ち帰ってきた、しっかりとした肉厚ウールのトートバッグは、アンコンプレストアにてお求めになれます。