2025年08月02日
セラ・デ・アイレを後にし、さらに北へ車を走らせたこの日。目指したのは、コインブラ郊外、小高い丘の上にある辺境の村、アルマラゲス(Almalagues)。ここはポルトガルで「最も美しい織り物」と称される伝統工芸、アルマラゲス織りのふるさとです。
母から娘へと受け継がれる刺繍織の技を守るクリスティーナ・ファシャーダ(Cristina Fachada)さんを訪ねるのは、5年ぶり。小山に建つ工房の窓から見渡す風景は、まるで時が止まったかのよう。変わらぬ静寂と、そよ風が流れる優しい時間に迎えられました。
かつてこの村では、女性たちが家族やコインブラの貴婦人たちのために、地域で栽培された麻を使い、ペルシャ織に似た木製の織り機で布を織ってきました。
1970年代ごろまで、この地域には公共交通手段がほとんどなく孤立していたために、このエリア独自の優れた織物の技術が長い間守られてきたのです。1990年代に入ると、機械織りの波が訪れ、織り子の数は減少。今ではこの小さな工房が、この地域で唯一残るアルマラゲス織の拠点となっています。
織り物用の糸の設定は手間暇のかかる作業で、縦糸を張るための糸を撚るために、道具で何本もの糸を仕立てていきます。これは何度見てもその速さと正確さを目の当たりにすると、ただ唖然とするばかりです。
現在、木製の織り機を作る職人はただ一人。クリスティーナさんは、母から受け継いだ織り機を部分的に修繕しつつ、大切に使い続けています。
かぎ針のような道具を使い、手と足を連動させて染み込ませるように糸をすくい上げ、コロンと立体的に様式化された模様をひとつひとつ織り上げていく作業。高度なデザインになるほど、一日に織り進められるのは数センチほどという繊細な世界です。
クリスティーナさんが織る、立体感のある、丸いつぶつぶとした愛くるしい姿の幾何学模様は、遠い昔どこかで出会ったような懐かしさを感じます。その手しごとは、代々女性たちに受け継がれてきたアルマラゲス織そのもの。
3歳のときから母に習って織物を始めた彼女は、そんなアルマラゲス織を愛してやまない織子。優れた作品や伝統技術が高く評価され、1986年工芸生産者、クラフトマンカード(国が手工芸家=クラフトマンと認めた法人や作家に与えられる公式な職業資格)を授与され、その技能と作品は高く評価されています。
「これがね……」と、クリスティーナさんが奥から取り出して見せてくれたのは、ポルトガルの価値ある伝統工芸をまとめた専門書。
その中に、彼女の作品とともに紹介されたページがありました。 村で唯一の織り手として、アルマラゲス織の継承者として紹介されている姿に、改めてこの織物の重みと、彼女が担っている役割の大きさを感じました。
「Pão(パン)」と刺繍されたほっこりした巾着袋は、かつてポルトガルの家庭ではドアノブに掛け、配達パンを入れてもらうために使われていました。
旅の間、レストランやお宿で朝食とともにその袋が運ばれてきたとき、「こんな可愛い袋に入れられるパンって、なんて幸せなんだろう」思わず微笑んでしまったひとこまも。
今回オーダーしていたのは、縦糸にリネン、横糸にコットンを組み合わせた特注のリネンタオル。ハリのあるしっかりとした生地は、使い込むほどに柔らかく、吸水性が増します。
キッチンクロスでお使いいただくことはもちろん、テーブルランナーとしてなど美しさを感じながら使えるおすすめの布です。
一点もののクラフト生地は、大きさや模様がひとつひとつ異なり、そのわくわく感も魅力。 お気に入りのポーチやリネンタオルは、アンコンプレのオンラインストアでご紹介しています。
2024.5.14 Almaragues,Centoro
2024年5月、ポルトガル各地を2800km走り、手しごとと風景を辿った21日間の旅。