2025年08月05日
創業当時の工房が手狭になり、2022年に移転したという新しい工房を訪ねるのは今回が初めて。フェイトリア・ド・カカオ(Feitoria Do Cacao)工房の建物が見えてきたとき、まず目に飛び込んできたのは、時代を感じさせる赤煉瓦の建物と、インパクトのある手描きのサイン。
青空に映える大きな南蛮人商人のイラストが、まるで私たちを出迎えてくれているようでした。 そういえば、友人のMahotimが足場に登って描いていたあのペイント…SNSで見ていたのは、まさにこれだったのね!
到着したときには、すでにその日の製造はほぼ終了していましたが、ローストを待つカカオがステンレスの網のバットに整然と並べられ、ホワイトチョコレートが丁寧にテンパリングされているところでした。
スザーナさんと知子さんとともに、ポルトガルスタイルのエスプレッソを片手に、試作中のチョコレートを味見しながら、あれこれと感想や意見を交わす興味深いひとときを過ごしました。
同じ産地のカカオでも、風味が微妙に異なり、それに合わせて焙煎時間や温度、コンチングの長さなど、すべての工程に細やかな調整が求められるのだそう。それがビーン・トゥ・バーの仕上がりを大きく左右する。まさに、素材との対話を繰り返しながらつくり上げていく、とても繊細なクラフトです。
チョコレートの個性は、カカオの品種や土地の気候、発酵・乾燥の方法、さらには作り手の意図によっても変わってきます。だからこそ、ひとつひとつのタブレットチョコがまるでモノガタリを語るかのように、豊かで奥行きのある味わいを持っているのです。
本当にたくさんの時間と手間をかけて、いくつもの工程を経て完成する一枚のチョコレート。その一片に込められた情熱とこだわりを感じながら味わうと、カカオという素材の奥深さと、クラフトチョコレートの世界の広がりが、より魅力的に感じるかもしれません。
製品にまつわる詳しいおはなしは、「フェイトリア・ド・カカオの愉しみ」をご覧ください。
カカオはまさに自然の恵み。そのため、気候の影響を大きく受けます。昨年は、カカオ産地の多い南米やアフリカの南半球で異常気象と大雨が続き、多くのプランテーションが壊滅的な被害を受けました。
一から栽培を始めても、収穫できるようになるまでには10年以上の年月が必要なのだとか。
その影響で、世界的にカカオ不足による価格高騰が続いており、「半年で5倍の価格に跳ね上がっているのよ」と、リアルタイムで映し出される市場価格の動きを見ながら、スザーナがため息をついていました。この価格の高騰は、もちろん商品価格にも重くのしかかってくるため、お二人も心を痛めている様子でした。
それでも、「楽しみにしてくれている世界中のファンのために」と、10年前にファクトリーを立ち上げた頃と、変わらずカカオと真摯に向き合い続けるお二人の姿には、心を打たれます。
そして同時に、私たちが何気なく口にしている美味しいチョコレートが、どれだけの情熱と努力で届けられているかを改めて感じ、「ありがとう」という気持ちで胸がいっぱいになりました。
ちょうど今ごろの夏の時期には、日本へ向けたビーントゥバーの製造が始まっている頃でしょう。秋のチョコレートシーズンを迎える10月の終わりには、日本に到着する予定です。
お仕事を終えたあとのひとときは、二人に連れられてお気に入りだという、アヴェイロの海辺近くのレストランへ。
そこで出会ったのが、ぶつ切りのうなぎがゴロッと入った濃厚なシチューです。玉ねぎ、ジャガイモ、パプリカなどの野菜とターメリックをはじめとするスパイスでじっくり煮込み、うなぎ=蒲焼という固定概念を一瞬で覆されるほどの深い旨味と香りが口いっぱいに広がります。
これは間違いなくクセになる味で、ポルトガルの好物リストにランクイン決定です!
2024.5.14 Soza,Centoro
2024年5月、ポルトガル各地を2800km走り、手しごとと風景を辿った21日間の旅。