2025年08月11日
フェイトリア・ド・カカオを訪ねた日は、ヴェイロに宿泊。翌朝は、出発前に朝の爽やかな空気とともに街をお散歩しました。
ポルトの少し南に位置する、大西洋に面したアヴェイロ。かつての海運の中心地は「ポルトガルのベニス」と呼ばれる水の都です。街にはいくつもの運河が流れ、カラフルなモリセイロ(moliceiro / ゴンドラ)と呼ばれる伝統的な船が行き交います。
この船はもとは農業用の海藻を集めるためのものでしたが、現在では観光船として、運河沿いの美しい景色や、塩田の風景へと運んでくれます。この日は時間に追われていたので、陸上からの景色を眺めながら歩きます。
石畳の道をゆるやかに進むと、そこに広がるのはアール・ヌーヴォーやバロック様式の建築。歴史に深く根ざした佇まいに包まれて、「ポルトガルらしさ」という情緒を感じ、小さな散策にも心が満たされるのです。
ポルトガルの建築に欠かすことの出来ないアズレージョ(装飾タイル)。旧市街を歩くと18〜20世紀に施されたままのタイル貼りの家が、童話に出てくるお家のように仲良く並ぶ姿に、心がときめきます。
アヴェイロは大西洋に面した繁華な湊町として栄え、かつては塩の生産や漁業、交易で栄富を得た街でした。そのため裕福な人々が多く、家々や公共施設などの建物に美を求め、アズレージョで装飾する文化が根付きました。タイルが貼られた建物は、上級の証だったのですね。
ちょうど家の壁一面に美しい装飾タイルが貼られた古い住宅が、修繕工事の最中でした。丁寧に手入れされながら受け継がれていく姿に心があたたまります。最近では、量産のタイルも多く見かけますが、手書きの味わいと奥行き感には歴史を感じます。
イスラム文化の影響を受け、スペイン経由で伝わったアズレージョ、そして青と白のタイルには、なんと有田焼の呉須のルーツがあるとも言われているとか。長崎から渡ってきた技術…そんなロマンを重ねて眺めると、染付のニュアンスにもどこか親しみを感じてしまいます。
アズレージョと並んで、ポルトガルの街の景観を特徴づける、カルサーダ・ポルトゲーザ(石畳)。白と黒のちいさな四角い石灰岩を組み合わせて、モザイク模様を描いた美しい歩道です。
各地で見かけるその模様は土地の文化や歴史を感じるものが多く、ここアヴェイロでは、波模様やモリセイロのモチーフを組み合わせたビジュアルが多く、湊町のものがたりを足元で感じることができます。それは、単なる石畳ではなく、暮らしと文化を織りなす“歩くアート”そのものです。
湊町が生んだ名物、「オーヴォス・モーレス(Ovos moles)」。「やわらかい卵」という意味の、修道院発祥のこのお菓子は、イワシや貝殻などの形をしたもなかのような皮の中に、あま〜い(甘すぎるほどの)卵黄クリームが詰まっています。
アヴェイロで最も古いお菓子屋さん、1856年創業のコンフェイタリーア・ペイシーニョ(Confeitaria Peixinho)では、創業当時のレシピを守り続けています。ショーケースの中には、ポートワイン樽を模したものなど、どれも素朴な手作りのお菓子が並んでいて、見ているだけで心がほっこりなります。
ふと思うのは、私の住む町にも「江ノ嶋最中」という貝殻の形をした最中があること。餡は違えど、海辺の町ならでころ誕生した発想と、最中のような皮が似ていて、この二つのお菓子のルーツがとても気になります。
短い朝の散策を終えて、中央にそびえる山を半周するように、再び車を走りらせて目的地へ。町の景色はあっという間に遠ざかり、車は山あいを縫うように進みながら、大自然の景色へと移り変わっていきました。
2024.5.15 Aveiro,Centoro
2024年5月、ポルトガル各地を2800km走り、手しごとと風景を辿った21日間の旅。