2025年09月16日
昨日までの天気が嘘のように、朝から気持ちのいい青空が広がります。シャヴェスから再び南へ約100km、車を走らせてドウロ渓谷のワイナリーを目指しました。
ポルトガルに通うようになって各地のワインを味わううち、特に歴史のあるドウロの渓谷のワイナリーをいつか訪ねてみたいという思いが募っていました。
ドウロ川沿いのワイン造りは、すでにローマ時代の紀元前1世紀には始まっていたといわれ、川を使ってワインをポルトまで運んでいたそうです。
今では「ワイン」と聞けばフランスを思い浮かべる人が多いですが、実は一人当たりの消費量が最も多いのはポルトガルだそうです。そんな2000年以上の歴史を持つワインを、作り手の場所で味わいたい。そんな念願を叶えるべく、今回はワインオーベルジュに宿泊することにしました。
初夏を迎えた山々は芽吹いた緑と色とりどりの花、そして葡萄の新芽に彩られています。いくつもの丘と谷を越え、やがて中流域に差しかかると「ピニャン鉄橋」と小さな町ピニャン(Pinhão)が現れます。鉄橋はエッフェルの弟子による設計で有名です。
雄大なドウロ川沿いに車を止めて深呼吸すると、まるで物語の1ページを切り取ったような可愛らしい景色が広がっていました。
ドウロ渓谷(Alto Douro Wine Region)はユネスコ世界遺産。急斜面に広がる石垣に植えられた葡萄の段々畑、そして何世紀もかけて人が積み上げた石壁「ソカロ」が特徴的です。
美しい景色に心弾ませながら丘を登り始めると、道は突然スリル満点のアトラクションに。くねくねと曲がる細道、容赦ないアップダウン、そしてどんどん狭くなる道幅が何キロも続きます。対向車が来たら崖下へ真っ逆さま!? と想像しては「お願いだから来ないで〜車!」と声に出して祈る始末。
友人の「日が暮れる前に到着してね」という忠告の意味を痛感しました。絶景に感動しながらも、怖さで胸がざわつくスリル満点の道中でした。
そして、無事に辿り着いたのは Quinta Nova Nossa Senhora do Carmo。1725年まではポルトガル王室の所有地だったというワイナリーです。入口に佇む小さな教会の壁には「1725」と刻まれており、長い歴史を物語っていました。
その後、19世紀にはマナーハウスとして使われていた建物をリノベーションしたホテル「Winery House Relais & Châteaux」は、11室のみのプライベートな空間。歴史を感じさせながらも快適に滞在できる、特別なワインオーベルジュです。
宿泊したコテージの客室は、すべてポルトガルの手工芸品でインテリアが整えられたナチュラルで落ち着いた空間。用意されていたブランケットは、私に縁のある「シ・コラサォン」のもので、思わず嬉しくなりました
コテージの前にはプライベートな中庭。そこからは葡萄畑の丘を一望できます。ウェルカムのポートワインとスイーツをいただきながら過ごすひととき──視界を遮るものは何もなく、至福の時間が流れます。
ホテルを取り囲むのは一面の葡萄畑。宿泊者はわずか11室ながら、広大な敷地にはプールやベンチ、チェアが点在し、思い思いにくつろげます。
冷えた白ワインを片手に、眼下に広がる葡萄畑、移ろう雲と青空を眺める。何も考えず、ただその場に身を委ねる贅沢な時間です。
夕暮れ時、中庭でアペリティフを楽しんでいた宿泊者たちは、それぞれ少しドレスアップしてレストランへ。ここでのメインイベントは、自家製ワインと地元食材を組み合わせたフルコースのペアリングディナーです。
ワインに詳しいわけではないけれど、一品ごとに異なるワインを楽しむ体験は格別。ドウロの奥深さを改めて知り、ますますポルトガルワインのファンになった夜でした。
その時いただいたワインはこちら:
・Tavora Terras do Demo Vardelho 2021
・Taboadella Villae Branco 2022
・Quinta Nova de Nossa Senhora do Carmo Mirabilis Branco 2020
・Taboadella Grande Villae Tinto 2019
・Quinta Nova de Nossa Senhora do Carmo Porto Vintage 2017
翌朝はワイナリーツアーに参加。醸造所、樽の部屋(barrel room)、そしてワイン博物館を見学しました。
古いガラスボトルが並ぶ展示では、柳の枝で編んだクラシックなカバーのボトルや、埃をかぶったワインボトルが時を超えて語りかけてきます。長い歴史を背負ったワイナリーならではの光景がそこにはありました。
2000年以上の歴史を刻むドウロ渓谷。急斜面に広がる葡萄畑、王室ゆかりのワイナリー、そして心を満たすワインと料理。Quinta Nova で過ごしたひとときは、ポルトガルの豊かな文化と自然をまるごと体験するような旅でした。
2024.5.19 Quinta Nova,Douro
2024年5月、ポルトガル各地を2800km走り、手しごとと風景を辿った21日間の旅。