2025年09月09日
ポルトガルの公共交通である列車は、リスボン、ポルトなどの大西洋岸の町を中心に、主要な内陸の町へと伸びているのですが、内陸へ向かう場合は高速バスが主な移動手段になります。私の訪ねる作家さんたちは、大概、秘境のような小さな町や村で静かに暮らす方が多いので、公共交通機関だけでは辿り着くのが難しいことがほとんどです。
そこで、レンタカーを借りて巡ることになります。セントロと呼ばれる中央山岳地帯の外輪にあたるエリアでは、宿泊施設も限られています。民泊が一般的になった今、古い建物に泊まりながら土地の文化を感じ、オーナー自らが用意してくれる朝ごはんを楽しむ、そんな体験も旅の大きな魅力の一つになっています。
スペインとの国境に近いサブガルへ向かう途中で宿泊した「Casa das Margaridas(マルガリータの家)」は、オーナーのおばあさまが暮らしていた築100年を超える古いお家をリイノベーションした趣のあるお宿でした。
お部屋はさほど広くはありませんでしたが、大きなベッドとアンティークのチェストが置かれた落ち着いた空間。「ご自由にお使いください」と案内されたリビングはとても広々としていて、優雅に寛ぐことができます。
そこに用意していただいた朝ごはんは、大きなテーブルにふたりだけという贅沢な空間。旅の目的が観光だと思ったオーナーは、近くにあるお城の数々を紹介するパンフレットを用意してくださり、「この周辺には10以上のお城があるのですよ」と嬉しそうに話してくれます。
その数の多さに驚きつつも、先を急ぐわたしは、そのご親切に感謝しつつパンフレットを頂戴して車を走らせました。
サブガルのイザベルさんを訪ねたあと、(イザベルさんのバスケットのおはなしはこちら。) 山岳地帯を北へ大きく回り込みモンテムーロ(Montemuro)という小さな村へ向かいます。
この日は朝からしとしと雨で、霧がかかったかと思うと、時折晴れ間がのぞく、そんな空模様。初夏を迎えた山々には色とりどりの天然色、野草やハーブが咲き誇り、雨に濡れてしっとりとした美しさが目を楽しませてくれます。
山道を走ると、緑に囲まれた丘の中に、ひょっこりと現れるのがモンテムーロの民俗学&ソーシャルアソシエーションの建物です。石造りの小ぶりな建物は、赤い屋根と白い壁がまるで絵本の挿絵のように愛らしく、あたたかな気持ちになります。
ここは地域の民族文化を伝える役割を持ち、館内には手工芸品を展示する伝統手工芸品店や、郷土料理が味わえる小さな食堂があり、2階からは、コトコトと織物をする音が聞こえ、建物に生活の息づかいが漂っていました。
実は、豆のおじやとスモークハムを乗せた名物を楽しみにやってきたのですが…なんたってあの立派な朝ごはんをいただき、お腹にはまだスペースはなく断念…。
さらに北上してドウロ川を越えると、いよいよポルトガル北部のヴィラ レアル(Vila Real)に到着。石造りの家や細い路地が残る、中世の歴史を感じられる町です。
かつて郵便局だった建物をリノベーションした、ユニークな宿がこの日の滞在先です。アイアン使いがモダンな印象のインテリアで、エントランスのガラスケースには、歴史資料が展示され、郵便局だった頃の名残を感じられます。
朝ごはんはキッチン横のダイニングで。焼きたてのパンが入ったポルトガル流のパン袋に、デザートはピクニックバスケットに可愛くおさまっています。エッグタルトやミートパイをオーブンで温めてくださるオーナーのあたたかなおもてなし。街の話を聞きながら、その土地の暮らしを身近に感じる旅のスタイルを楽しむことができました。
2024.5.16 from Marcata to Montemuro and Vira real,Centoro
2024年5月、ポルトガル各地を2800km走り、手しごとと風景を辿った21日間の旅。